X理論、Y理論、Z理論  (MBA 裏話 - 7 )

今思い返すと私がビジネス社会でアカデミックな論理に初めて遭遇したのは40数年前であった。日本IBMでの二年間の厳しいコンピュータと営業の教育を終え、責任あるセールスマンとして希望に燃えて一台数億円の最新鋭機S/360の売り込みを始めた頃であった。(あのころが本当に懐かしい)

私の上役である課長のところに回ってきた日本語で書かれた管理職用の教育レターを「君たちも参考になるだろうから読んでおけ」と見せてくれた。その頃脚光を浴びていたらしい「マクレガー教授のX理論、Y理論」が簡単に解説してあり、部下に対してはY理論で接するのが有効である、と書かれていた。半世紀も前からIBMは世界的にこんな高度な内容のマネジャー教育をしていたのですね。

部下の管理の手法を見られていいのかなあ、この上役は話せるなあ、などと思いながら興味深く読んだのを覚えている。これはこの課長自身がY理論で行動している事例である。実際この課長はその後出世して取締役までいった。私にとって大いに尊敬できる記憶に残る良い上役であった。

マグレガーMIT教授はその著書『企業の人間的側面』で次のように述べている。人間には2種類あり
①性悪説的な「人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず放っておくと仕事をしなくなる」・・・この人たちには命令や強制でしっかり管理しないといけない(X理論)。
②「人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し進んで問題解決をする」・・・この人たちには自主性を尊重する経営手法が有効である(Y理論)

この理論は「マズローの欲求5段階説」に関連付けて説明される。X理論は低次元の欲求を多く持つ人間の行動モデルに適用され、Y理論は高次元の欲求を多く持つ人間の行動モデルに適用される。低次欲求が充分満たされているような現代においては、Y理論に基づいた管理方法の必要性が高い、とマクレガーは主張している

1960~1980年代の日本企業の躍進はY理論に基づく工場管理で労働者の自主性を尊重しモラールを上げQC活動を通して品質向上に貢献したといわれている。一方米国ではX理論に基づき工場労働者は機械の代用とみなされる風潮があり、企業への忠誠心は無きに等しく品質向上意識等は皆無だったといわれている。日本の経営を見習おう!の風潮があった時代である。

その後日系3世のオオウチ教授がその著『セオリーZ』で、優秀な米企業HP、IBM、P&G等は多くの優秀な日本企業同様、X理論とY理論の両方の良さを取り入れた「Z理論」で信頼関係をベースにマネージされていると論じている。

『ソニーは人を生かす』1966 小林茂著 はソニーの厚木半導体工場の労働争議を盛田氏が招いた新任工場長がY理論で解決したくだりが述べられている。タイムレコーダーの廃止や社員食堂のレジ係の廃止等で労働者を信頼しその自主性を強調した。遅刻は格段に減り、食券の回収の正確性も上がったそうである。人間として信頼されるとだれもがまじめにやるものである。

私はいつもこのX、Y、Z理論の話をMBA学生にした後、真面目な顔をして次のような話を特に女性学生に向けてすることにしている。「皆さん、御主人の浮気管理はぜひY理論でやってください。御主人を信頼しないX理論だと、御主人はクラブのホステスの名刺や電話番号等をどう隠すかばかり考えるが、男というものは妻からこの人は浮気などしないと本気で信頼されると、悪いことはできないものなのです。」 (完)

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