挑戦者包み込む経済に  (MBA Update – 6 )

 2012.4.1 日経朝刊

新しい会社がどんどん勃興する経済にしないと長引く日本の産業停滞は改善しない。ベンチャー振興が叫ばれ続けているが、新しいものを生む挑戦者を受け入れにくい経済構造が依然として変わっていない。
大企業がベンチャー企業に門戸をもっと開くべきだ。大企業とベンチャーが連携するオープンイノベーションが世界の潮流なのに、日本では大企業のベンチャーへの拒絶反応が強くうまくいかない。ベンチャーは端役という感覚を社会全体で捨てないといけない。・・・・・と論説委員はきれいな正論を述べている。

だがちょっと待って欲しい。じゃあどうすれば、動きの悪い日本の閉鎖的な大企業のマネジメント達がリスクを取って(自分の出世をかけて)手間暇のかかる(得体のしれない)ベンチャーと連携する気になるというのか?

私もこの分野は21世紀初頭MOTの最重要分野「コーポレート・ベンチャリング」としてこの10数年間、欧米事例をインタビューし分析し、学会論文、MBAでの講義、出版、経団連での講演、経済産業省の「大企業とベンチャーのWin-Win委員会」等で何とか実現したいと試行錯誤しながらいろいろやってきたが実効はごく少ない。日本の事例を調べるとトヨタ、清水建設、富士通等ごく一部の大企業が細々と実験的に進めている程度である。

どうすればこの世界的激変の時代に眠り続ける日本企業を目覚めさせてベンチャーを絡めたオープンイノベーションが実現できるのかと悩んでいたが、最近のユニクロ、グリー、楽天、野村証券、日本たばこ、セブンイレブン、アサヒビール等従来の内需産業が追いつめられて活発にアジアを基軸にグローバル化する動きを見て日本企業の閉鎖的なモデルも変わるのではないかと期待を持ちだした。

その理由は、ソニー、ホンダ、パナソニック等日本のモノづくりグローバル企業は日本で日本人が決めたことを世界に導入(押しつける)する「PUSH」型のグローバル化で成功してきたが、サービス要素を多く含む上記の企業達はグローバル企業競争に勝つためには現地の才能ある人材を経営に取り込み、彼らを活用して現地でサービスや販路、商品を開発していく「PULL」型グローバリゼーションを取らざるをえないであろう。(その手段として全社的な英語の活用は言うまでもなく当り前の話ではあるが)

欧亜のリーマンを買収した野村証券ではすでに東京の本部機構部門では上役が英国人、同僚が中国人、部下がフランス人とインド人、のような人材ダイバーシィティの渦の中で日本人社員が生き残りをかけて奮闘しているであろう。彼らが外国人の持つオープンで競争意識の強いアントレプレナーシップに巻き込まれながら、日本人の持つキメの細かさや和の精神の良さを生かしてクリエイティブな新しい企業文化を創り出していくであろう。海外現地でも同様なことが起こり、企業経営者もリスクを取ってオープンに取り組む体質の良さを認識し変質していくのではないか。キャッチアップ型モデルから日本が解放される時が来そうである。
「挑戦者を巻き込む経済」をどう実現するか、もっと具体的な論を皆で模索すべきであろう。(完)

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参考資料:
経済産業省 「 コーポレート・ベンチャリングに関する調査研究」(委員長 前田昇)報告書 2008
コーポレート・ベンチャリング事例集」2008

日本IBM 無限大「大企業とベンチャーのWin-Winをどう創り上げていくか」前田昇 No.120 2006冬
 

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